学校法人森友学園(大阪市)への国有地売却価格が不当に下げられたのではないかという疑惑。朝日新聞の報道によると、契約当時の決裁文書と国会議員に開示された文書で異なっており、「契約までの経緯」という項目がすべてなくなっているという。1
この疑惑を受けて、問題発覚時の財務省理財局長で国税庁長官の佐川宣寿(さがわ・のぶひさ)氏が辞職2するなど波紋が広がっている。関連は不明だが、財務省近畿財務局で森友学園との国有地売買をめぐる交渉を担当していた職員が自宅で死亡しているのが見つかったそうだ。3
公文書は歴史検証にとって大切なもの
公文書というのは後世の人が歴史を検証するときに必要なもので、その内容については一切手をつけてはいけない代物だ。公文書が改竄されてしまえば誰も歴史を正しく把握できないし、正当に評価することもできない。財務省は公文書を改竄したことを認める方向らしい4が、これは民主国家としてはあってはならないことだ。
公文書改竄は「真理省」を彷彿とさせる
このニュースを聞いたときに僕はジョージ・オーウェルの小説『1984年』を思い浮かべた。『1984年』の中では、報道・娯楽・および芸術を管轄する「真理省」(Ministry of True)が過去の報道内容を都合のいいように改竄をする様子が描かれている。時の政権にとって都合の悪い文書が見つかると真理省によって「修正」される。そんな国家では、誰も真実にアクセスすることができない。
『動物農場』の「七戒」
或いは、『動物農場』のほうを思い浮かべた人もいるかもしれない。人間を追い払ったあとの動物が作った「七戒」が、時を経るごとに為政者に都合のいいように「修正」されていく。「動物は酒を飲むべからず」が「動物は酒を飲むべからず、過度には」というように。(岩波文庫版、川端康雄訳より引用)
誰のための公文書か
先に述べたとおり、公文書というのは後世の研究者がアクセスして歴史を検証するために必要なものであって、その意味では国民全体の資産だ。財務省の所有物などではない。情報にアクセスしたい人がいれば、特段の事情のない限り開示されるべきものなのだ。
それなのに、国民の代表が集う唯一の立法府である国会に改竄した文書を提出したというのは国民に対する背任行為だ。財務省が単独で行ったものなのか、それとも政府与党が噛んでいるのかは知らない(前者にはもっともな理由付けができないので、通常は後者だと考えられるが)。国民(の代表)に対して、嘘の答弁をして、嘘の書類を出した。こんなこと、許せるだろうか。
2010年代の「開拓使官有物払下げ事件」となるか
明治時代に起きた「開拓使官有物払下げ事件」では、北海道開拓使長官の黑田清隆が同郷の五代友厚らの関西貿易商会に官有物を安値で払い下げようと画策し、世論の激しい批判を浴びた。これが「明治14年の政変」のきっかけとなったとされている。森友学園を巡る問題は、僕にはこれと同じような構図に見えている。
この後の日本は国会を開設するなど近代国家を目指して歩んでいったけれども、この2018年もそういう歴史の転換期という評価を受けるかもしれない。今後の日本をどうしていくのか、決めるのは主権者である僕ら国民だ。
歴史の改竄を指示したのは誰なのかを突き止めて裁き、今後同じようなことが起こりえないような法整備をしていく。そうやって、少しずつ進歩していけたらいいのではないかと思う。
素朴な疑問
- 森友学園と価格交渉をしていたときの財務省理財局長は事実上更迭された佐川宣寿氏ではなく、迫田英典(さこた・ひでのり)氏。この人の周りの話が出てこないのは何故?
- 佐川宣寿氏を減給処分とするのであれば、参考人招致された近畿財務局の局長クラスの人も処分されそうなものだけど、そういった話は聞こえてこない。
- 政権交代が可能な制度のなかで、財務省が公文書を改竄する理由が見つからない。いったい誰が指示したのだろう。
脚注
- 森友文書、項目ごと消える 貸付契約までの経緯 売却決裁調書、7ページから5ページに(朝日新聞デジタル) ↩
- 佐川国税庁長官辞任 森友問題めぐり引責 前理財局長 文書調査結果、12日公表(朝日新聞デジタル) ↩
- 財務局職員、自殺か 国有地売買交渉、担当部署(朝日新聞デジタル) ↩
- 財務省、書き換え認める方針=森友決裁文書、政権に打撃(時事通信) ↩
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