親類が飲食店を経営している。はじめは美術系の大学を出た子供の作品や気に入ったものを売るショップにカフェを併設する計画でスタートしたのだけど、手作りのパンやスイーツが評判となって、パンをテイクアウトする客が多くを占めているという。
喫茶店というのは食べ物よりも飲み物の方が大きいので「うちはパン屋じゃない」とこぼしていた。
仕入れているコーヒー豆も、近くの(といっても自転車でも辛い距離だが)自家焙煎珈琲店から仕入れていて、これもまた美味しい。パンも珈琲もスイーツも美味しいということで、近所の老人たちがゲートボールを楽しんだ後のたまり場になっている。実際、雨の日と風の日は来客が少ないそうだ。
何故か業務用を使いたがらない親類のカフェ
さて、本題の「家庭用と業務用とで味が違うことがある」という話はこの親類のカフェを舞台に起こったことだ。
何年か前の話で今もそうなのかは知らないが、うちの親が(お馴染みの)「キユーピーマヨネーズ」を特売日に買い置きして親類に会った日に渡すと言うのである。「カフェで使うから欲しいんだって」というのだから、もう目が点になるどころか頭が真っ白になった。
「いや、この間業務用食品専門店の入店許可もらえたって言っていたじゃないか。キユーピーマヨネーズだったら業務用が一般のひとでも買えるくらいだし、業務用のほうが安くて原価を抑えられるじゃないか」。
知っての通り、キユーピーは業務用マヨネーズを出している。オーガニックとかそういうのにこだわるわけでもなく、誰でも手に取れるような品物を使うんだったら業務用を使った方がコストがかからない。常識的に考えて、業務用を使わない手はない。
親はこう付け加えた。「業務用で作ったら味が全然違って納得が出来なかったんだって」。
キユーピーマヨネーズは家庭用と業務用とで味が異なる
インターネット上の人力検索サイトなどを見ると、「一般家庭用のは卵黄を使っているのに対して業務用は全卵を使っているので味が違います」というコメントが散見される。業務用食品店などで販売されている「キユーピー プロユースマヨネーズ210」のことを言っているのだろう。だがそうではない、「キユーピー 業務用マヨネーズ」の話なのだ。
寡聞にして知らなかったのだが、「キユーピー 業務用マヨネーズ」のパッケージにはこのような文言がある。
業務用向けに配合してありますので一般家庭用とは味・状態が異なります。
同じメーカーの同じような商品でもプライベートブランドなど流通ルートが異なると配合を変えていることがある。「業務用マヨネーズ」もその一環だろう。
キユーピーの業務用商品のサイトを見ると、マヨネーズ類だけでもその種類の多さに驚かされるほどだ。「業務用で作ったら味が全然違って納得できない」というのも確かに肯ける。
成分表示
キユーピーのサイトから得られる表示だけでも、以下のような違いがある。全卵を利用している「プロユースマヨネーズ210」が違うのは当然だが、一般家庭用と業務用とを比較してみると醸造酢と卵黄の順番が異なっている。食品表示の原材料は、使用した重量の割合の高い順に表示される1ので、それだけでも味の違いは歴然としたものだろう。
キユーピーマヨネーズ
食用植物油脂(国内製造)、卵黄、醸造酢、食塩、香辛料/調味料(アミノ酸)、香辛料抽出物、(一部に卵・大豆・りんごを含む)キユーピー マヨネーズ
キユーピー業務用マヨネーズ
食用植物油脂、醸造酢、卵黄、食塩、香辛料/調味料(アミノ酸)、香辛料抽出物、(一部に卵・大豆・りんごを含む) キユーピー 業務用マヨネーズ
キユーピー プロユースマヨネーズ210
食用植物油脂、卵、醸造酢、食塩、砂糖類(水あめ、砂糖)、香辛料/調味料(アミノ酸)、香辛料抽出物、(一部に卵・大豆を含む)キユーピー プロユースマヨネーズ210」
中身が「同じ」でも味の違いを感じる人もいる
中身や原料が「同じ」商品でも、パッケージングの違いや生産地、保存状態などで味の違いを感じる味覚の敏感な人もいる。「コカ・コーラは瓶じゃないと厭だ。ペットボトルだと炭酸が足りない」という話はよく聞くような気がする。
PET樹脂には酸素透過性があると言われているので、当然味の違いは出てこよう。工場を出荷してから時間が経てば経つほど、また可塑性の高いPET樹脂は保存状態によって差が大きく出やすい。キユーピーマヨネーズにも瓶が売られている。
生産地についてもそうだ。農作物ならば生産者が同じようにやろうが土壌や気候の影響を受けるし、加工食品であっても水質の影響を受ける。ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝が気候や水質などの観点から蒸留所の立地に拘ったという話が朝の連続テレビ小説『マッサン』で描かれたこともあるが、寝かせた原酒を加水するときの水質も味の決め手になる。
そう考えると、確かに原料液を水で薄めるカップ式自販機やドリンクバーなどは水質の影響を受けやすい。自分の舌がどこまで肥えているのか、試してみたい気もしないでもない
保存状態については言いたいことが山のようにあるので別稿に譲るが、 「安価だからといって劣悪な保存方法を取っている店で買いたくはない」 ということだけは付け加えておく。
個人的に好みのマヨネーズ
マヨネーズの一般家庭用と業務用の違いの話をしていたのに話が大分横道に逸れてしまったが、最後に自分好みのマヨネーズを挙げておきたい。
うちで一番よく使うのは「松田のマヨネーズ(辛口)」。これに出会ったときには、こんなにも美味いマヨネーズが売られているのか!と思ったくらいだ。色々なメーカーの商品を試すようになった切っ掛けをくれたものでもある。松田のマヨネーズには甘口もあるので、嗜好によって選んでもらえればいいだろう。
手に入りやすいところだと、創健社の有精卵マヨネーズも使うことがある。これも悪くない。
調理実習で習うくらい単純だけど難しいマヨネーズ
マヨネーズは学校の家庭科の調理実習で習う2くらい作り方が単純で、基本的には卵黄(好みによって全卵)・油・酢を(ハンド)ミキサーで混ぜるだけだ。まあ、混ぜるのも脂ぎった調理器具を洗うのも面倒だから市販のものを買うわけだけど。あと、家庭で作ると環境の整った工場で作るよりも足が早い。無菌室で作ってるわけではないから仕方がない。
これは蛇足だが、「英語を話せないのは学校の英語教育が悪いからだ」というひとに対して、「マヨネーズも作れないのは家庭科教育が悪いから?」とマウントを取るのはナンセンス極まりないのでやめておくことにする。
味の違いを見極められないと足元を見られる
加工食品については一般の食料品店なら輸送や保存にも気を配っているだろうと推察される3ので問題はないだろうけど、生鮮品については、知識や味の違いが分からないと足元を見られるので気をつけたいところ。宝石や骨董品の真贋の区別をつけろというのは相当勉強が必要だろうけど、味覚くらいは鍛えられるはずだ。
海を回遊したマグロのトロと「全身がトロ」だという養殖マグロは多分鍛えた肉に一部存在する脂身と全身メタボの脂身くらい違うのではないかと考えたことがあるものの、実際に比較したことがないので何とも言えない。
いずれにしても、違いの分かる大人になりたい。
何事においても、真贋の区別のできる大人に。
食なくして生は有り得ないのだ。自分の生命に直結する食品にくらいは、気を配りたいものである。
- 知っておきたい食品の表示(消費者庁) ↩
- 中学校時代に1年間不登校の時期があったのでその頃にやったかどうかは定かでないが、少なくとも小学校と高校の家庭科の時間にやったと記憶している。 ↩
- 防虫剤と一緒に保存したために日清食品のカップヌードルなどから防虫剤成分パラジクロロベンゼンが検出されたことは記憶に新しい。「移り香の可能性高い」 カップめん異臭で神奈川県警(朝日新聞)、「移り香」事案に関する警察・保健所等の調査結果について (まとめ)(日清食品)などを参照。 ↩
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