2019年2月21日夜、北海道胆振総合振興局勇払郡厚真町で最大震度6弱を観測する地震が発生した。厚真町は2018年9月6日未明の北海道胆振東部地震で最大震度7(厚真町鹿沼)を観測したばかりの被災地で、NHKや民放各社の報道で仮設住宅に暮らすひとへ電話インタビューをしているのが散見された。
この地震について、「人災ではないか」と示唆する元内閣総理大臣の鳩山由紀夫氏(@hatoyamayukio)のツイートが物議を醸している。
高圧で二酸化炭素を地下に貯蔵するCCSが影響?
鳩山由紀夫氏の主張を要約すると次の通りになる。
- 二酸化炭素を高圧で地下に埋める二酸化炭素回収・貯留(CCS)が苫小牧で行われている。
- アメリカ陸軍の調査では、CCSの15km離れた範囲で地震が頻発した。
- 胆振東部地震はCCSによって起こされた人災は無視できない。
- 当初長岡で行われたCCSは新潟県中越地震、新潟県中越沖地震で中止に。
- その後行われた、いわき市沖と苫小牧沖でCCSの実証実験と東日本大震災・北海道胆振東部地震は無関係と言い切れないので検証が必要だ。
鳩山由紀夫氏は陰謀論で人工地震だと言っているのではなく、あくまでも「炭酸ガスの地下貯留実験CCSと地震との関連性を科学的に検証するべきだ」と言っているに過ぎない。
CO2の地下貯留のCCSプロジェクトが苫小牧で行われている。大変に大きな圧力をかけてCO2を地下に埋めるのだ。しかし米陸軍の調査では、CCSの15キロ離れた辺りで地震が頻発したという。昨年の北海道の厚真地震は正に苫小牧の隣町で起きた。CCSによって起こされた人災との指摘は無視できないと思う。
— 鳩山由紀夫 (@hatoyamayukio) 2019年2月2日
CCSの実験は最初長岡で行われたが、中越地震、中越沖地震と続き長岡での実験は中止となった。その後、いわき市沖と苫小牧沖でCCSの実証実験が続けられたが、ご案内の通り東日本大地震と北海道地震が起きている。これらの巨大地震とCCS実験が無関係と言い切れるのか。少なくとも徹底検証が必要だ。
— 鳩山由紀夫 (@hatoyamayukio) 2019年2月2日
先日昨年の北海道厚真町地震が高圧でCO2を地下に貯蔵するCCSにより人工的に引き起こされたのではないかと書いた。実際、北大の研究者が5年前にその可能性があるとする論文を発表していた。日本では地震の影響を考慮するとCCSは非現実とも述べている。政府は決して認めないだろうがCCSは再考すべきだ。
— 鳩山由紀夫 (@hatoyamayukio) 2019年2月21日
先ほど北海道厚真町の地震は苫小牧での炭酸ガスの地中貯留実験CCSによるものではないかと書いたばかりの本日、再び厚真町を震源とする震度6の地震が起きてしまった。被災された方々にお見舞いを申し上げると同時に、本来地震に殆ど見舞われなかった地域だけに、CCSによる人災と呼ばざるを得ない。
— 鳩山由紀夫 (@hatoyamayukio) 2019年2月21日
「人工」地震は陰謀論ではない:デンバー地震などの例が存在
東日本大震災について、「政権に都合が悪いから人工地震を起こしたのだ」などという陰謀論が出回っているが、当方はそういう陰謀論を唱えるつもりはない。
地震の型にはプレート型や正断層型、逆断層型など様々な種類があるので専門外の人間にとっては地震のメカニズム云々を言うことは非常に難しい。
しかし、地下開発と地震との関連については様々な科学的な研究がある。人工地震というと陰謀論のように思えるので、以下「誘発地震」と言い換えることにする。
「人工」地震と「環境改変技術敵対的使用禁止条約」
インターネット上で「人工地震」というキーワードで検索すればわかるように、実験を行った際に地盤の弱さが影響して想定外の揺れを観測したという読売新聞などの報道が存在する。
「人工地震」や「気象兵器」という言葉を使うと、「科学的根拠のない似非科学・陰謀論だ」という声が根強く聞かれる。陰謀論者の声が大きいあまりに、地下の構造を解明するためにも地下開発と地震との関連性を科学的に検証しようと言っても根強い反発がある。陰謀論者は害悪でしかないので本当に消えていただきたい。
気象兵器は陰謀論だというひとには悲しいお知らせだが、日本は1978年発行の「環境改変技術の軍事的使用その他の敵対的使用の禁止に関する条約(通称:環境改変技術敵対的使用禁止条約)」1に加入している。これは、故意に自然界の諸現象を変更し、地震や津波などを起こしたり台風などの方向を変えたりして軍事的に利用することを禁止する条約だ。環境改変技術の軍事的な応用が人類にとって有害であるということが示されている。誘発地震などの環境改変技術というのは、政治の世界では、普通に議論されている。
環境改変技術の「平和的使用」はOK
環境改変技術敵対的使用禁止条約の第3条第1項には「この条約は、環境改変技術の平和的目的のための使用を妨げるもものではなく」という文言がある。平和的使用であれば、環境改変技術の応用ができる。その点は押さえておきたい。
地下開発とデンバー地震
1962年から1967年までアメリカ・コロラド州デンバー周辺で頻発した「デンバー地震」。ロッキーマウンテン兵器工場での廃液の地中注入が要因となったとされる(Wikipediaなどを参照)。
そういうわけで、地下開発が地震を誘発するという考え方は完全に科学的手法に則ったものであって、似非科学だとか陰謀論だとかいうものではない。
地下開発と地震発生のリスクの研究
大気中の二酸化炭素を回収して地中に隔離する「二酸化炭素回収・貯留(CCS)」には地震を引き起こす危険性があることは2012年にアメリカ・スタンフォード大学のチームが報告している。2
論文では、すでに米国において排水の地下貯留と小中規模の地震発生が関連づけられていると指摘。古くは1960年のコロラド(Colorado)州の例、さらにはアーカンソー(Arkansas)州やオハイオ(Ohio)州で昨年発生した地震を例に挙げつつ、「100年から1000年の単位でCO2を隔離することが考えられている地層で同規模の地震が起これば、問題は極めて深刻である」と警鐘を鳴らす。
二酸化炭素貯留に地震を引き起こすリスク、米研究
CCSのほかには、シェールガス・シェールオイル産出のための水圧破砕法(フラッキング)が人為的な地震を発生させると言われている。地中に水・砂・化学薬品を混合した液体を注入して石油やガスを取り出す水圧破砕法によってオクラホマ州で地震の頻度が跳ね上がったとナショナル・ジオグラフィックが2016年に報じている。3
オクラホマ州のある地域では、地下から出た水の廃水量が5~10倍に膨れ上がると、マグニチュード3.0以上の地震も急増。1970~2009年までの間でも100件以下だった地震発生数が、2014年の1年で600件近くに、2015年には907件にまで跳ね上がった。
米オクラホマ州で人為的な地震が増加
相次ぐ地震で中止となった地下開発も
AFP通信によると、2018年にオランダで地下開発が原因と思われる地震が相次ぎ欧州最大のガス田が縮小・閉鎖へと追い込まれる事態になった。4
オランダ政府は、北部フローニンゲン(Groningen)州で被害をもたらす地震が頻発していることを受けて、同州にある欧州最大の天然ガス田におけるガス生産を大幅に縮小し、2030年までにはガス田を完全に閉鎖する。マルク・ルッテ(Mark Rutte)首相らが29日、発表した。
オランダ、欧州最大のガス田を閉鎖へ 相次ぐ地震で
日本国外の報道を見ると、地下開発と地震との関連性を指摘が指摘され、中には訴訟になるケースもある。5
プレートが交錯していて地震大国である日本は、そういうことに敏感でなくてはならない。そう思う次第だ。
CCSを南関東ガス田のある東京湾で行う計画も
現在苫小牧で行われている二酸化炭素回収・貯留(CCS)を東京湾地域で行う計画があるようだ。東京湾地域は「貯留に適した帯水層」だそう。6
長年にわたってCCSを研究している「地球環境産業技術研究機構(RITE)」の評価結果によると、日本の近海にはCO2の貯留に適した帯水層が広く分布している。火力発電所や製鉄所が数多く集まる東京湾・伊勢湾・大阪湾・北部九州の4地域の沿岸にも帯水層が分布していて、大量のCO2を貯留できる可能性が大きい
CO2回収・貯留技術を実用化へ、2030年までに石炭火力発電所に適用
しかし、東京湾——いわゆる「首都圏」には南関東ガス田と呼ばれる大規模なガス田がある。掘削すると(江戸)城東の低湿地が海に沈むために開発が中止になったガス田である。
記憶に新しいところでは、2007年に東京都渋谷区松濤一丁目の温泉施設「松濤温泉シエスパ」で温泉と一緒に汲み上げた天然ガスに引火し爆発したとされる、いわゆる「松濤温泉シエスパ爆発事故」がある(Wikipediaなどを参照)。
天然ガスを採掘すると江戸川区や江東区が海の底になる。実際、過去には海の底であった地域なのだが、その埋蔵量は多いと推定されている。使おうとすれば城東・葛飾・下総・上総の大半が海に沈むかもしれないけれども、そんなところに二酸化炭素を貯留したらどうなるか。ただでさえ複数のプレート(ユーラシア・北アメリカ・フィリプン海)が交錯する首都圏は複雑怪奇にして犯すべからずといいたいところだ。
「見えない」地下の開発は慎重に
掘削技術を磨きたい技術屋/企業の気持ちも分からないではないが、地下というのは現代の人間の観測技術を超えたものがある。福岡県福岡市博多区で地下鉄トンネル掘削中に地盤が崩落した事故(博多駅前道路陥没事故)などもある。未明であったために犠牲者がいなかったことが幸いしたが、あれが昼間であったらなら大変なことになっていたはずだ。「地盤が想定より薄かった」。技術者はそう弁明するけれども、人命がかかっているのだ。「想定外」では済まされない。想定外のことが起きてもいいように、慎重に作業を進めてもらいたい。
近代「科学」は「教科書を疑う」ことから始まる
日本にいると科学万能説を唱えるひとに会うことがあるけれども、 近代科学というのは人間の知的な営みに過ぎないということは頭に入れておかなければならない。科学を否定するのかと訊かれることもあるが、そうではない。その時点の科学的知見を盲信するなと言っているのだ。
近代科学は宗教ではない。信じるものではなく、自分の頭で考えて観察する事象と合っているかを常に確認し、例外的な事象があればそれを説明する理論を考える。そういうものだ。
「冥王星の軌道がズレている、おかしい」。
そこから出発して包括的な理論を構築するのが近代科学なのだ。その時点での科学的知見は、10年後には、あるいは1年後に出さえも古びたものになっているかもしれない。そう考えていかなければ、「科学」(と呼ばれた何か)を信じるだけの宗教的な妄信的な信者に成り下がってしまう。
教科書は書かれた時点の科学的知見に過ぎない。盲信するな。疑って、自分の頭で考えて行動しろ。実際に研究を進めてみると、かつて否定されたものが理論的に正しいという結論が導かれたりもする。近代科学は右へ左へ行ったり来たりする。それでも、その時点で反証可能性7が担保されていればいい。そういうものなのだ。
盲信するな、考えよ。考えた結果、その仮説が論理的に誤っていると証明できるのであれば、それを示せ。それが近代科学だ。オカルトみたいに、誤っていると証明できないものは科学ではない。だが、誤っていると証明できれば科学たりうるのだ。
CCSと地震との「科学的」関連性が気になる
CCSと地震とが相互作用を起こしている可能性がある。——そう疑うだけの証拠は実際に存在することは今まで見た通りだ。
だから、「実際のところどうなのよ?」と疑ってかかって、科学的な相関関係が見られるかどうか。相関関係が見られれば、暫定的に「CCSは地震を誘発する」という説が科学的に「最もらしい」説となる。
天動説を否定して地動説を唱えたひとが有名だったりするけれども、今後科学が進展して人間の科学で観測できる範囲が広まれば、天動説が正しかったということも有り得る。科学というのはそういうものだ。もしかしたら、天動説と地動説を両立させる理論が誕生するかもしれない。
地球上に存在する一介の動物に過ぎない<人間=ホモ・サピエンス>はどこまで真理に辿り着けるのか。
人類の挑戦は、果てしなく続く。
- 環境改変技術の軍事的使用その他の敵対的使用の禁止に関する条約(外務省) ↩
- 二酸化炭素貯留に地震を引き起こすリスク、米研究(AFP通信) ↩
- 米オクラホマ州で人為的な地震が増加(ナショナル・ジオグラフィック) ↩
- オランダ、欧州最大のガス田を閉鎖へ 相次ぐ地震で(AFP通信) ↩
- Risk of human-triggered earthquakes laid out in biggest-ever database(nature) 、Fracking in Lancashire suspended following earthquake(BBC)などを参照。 ↩
- CO2回収・貯留技術を実用化へ、2030年までに石炭火力発電所に適用(ITmedia) ↩
- 反証可能性とは、その仮説が「論理的に考えて、明らかに誤っている」と言うことができること。近代科学では、「正しさ」ではなく「誤りと言い切れること」が重要視されている。 ↩
コメント