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「レシート買取」ビジネスは成功するか:ビッグデータと個人情報を考える

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BUSINESS INSIDER JAPANの記事によると、「ワンファイナンシャル」が財布のレシートを10円で買い取るアプリ「ONE(ワン)」の提供を始めるという。「ワンファイナンシャル」は現役高校生プログラマーが率いる会社だそうで、CEOは高校3年生なのだそうだ。

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レシート撮影で現金化

「ONE」はスマートフォンのカメラ機能を使ってレシートを撮影するとアプリ内に10円が振り込まれる仕組み。銀行の手数料分以上で引き出せるようになるという。

ワンファイナンシャルCEOで高校3年生の山内奏人さんは「レシートには究極のいろんなデータが含まれている。いつ、どこで、誰が何をいくら払って、いくらお釣りをもらって買ったのか。一人ひとりの購買行動やパターン分析ができるようになる」と話す。蓄積データをメーカーなど企業向けに販売していく狙いがある。

レシート1枚10円で買うアプリ、天才高校生プログラマーが小売市場に挑む(BUSINESS INSIDER JAPAN)

ポイントカードなどでは分散しがちな購買履歴データ。レシートであれば自動販売機などを除けば大体発行されているし、最近は商品名も記入されているものもある。発想としては面白い。

出金には運転免許証などでの本人確認が必要

記事の中で一番気になったのがこの部分。

出金の時に、運転免許証や健康保険証といった公的な書類をアプリ内カメラで撮影してもらい、本人確認をする。このため、ワンファイナンシャルとしては個人にひもづく購買行動データが取得できることになる。
「戸籍情報や性別を抽象化することで、メーカーなど企業向けに売れるデータになる」と、山内さんはみる。

レシート1枚10円で買うアプリ、天才高校生プログラマーが小売市場に挑む(BUSINESS INSIDER JAPAN)

POSレジは見た目の年齢や性別によるし、ポイントカードだって虚偽の情報を書くひとがいるだろう。公的な書類を提出させることでデータの信憑性を高める狙いがあるようだ。

レシート現金化アプリ「ONE」の課題

セキュリティ面:本人確認書類が怖い

本人確認書類を提出させることでデータの信憑性は向上する。他方でデータ流出防止のセキュリティ対策が一番の課題になってくる。個人情報の保護という観点から見ると、どうも二の足を踏んでしまう。

購買履歴は本人とは必ずしも結び付かない

これはポイントカードや電子マネーなどのあらゆるビッグデータに言えることだが、購買履歴は個人と必ずしも結び付かない

家族や友人の間でポイントカードの貸し借りをすることもあるだろうし、誰かに頼まれた買い物かもしれない。購買履歴からは行動範囲や家族構成、趣味嗜好が読み取れると言われるが、果たして本当にそうだろうか。

大手企業はこういったビッグデータの「ノイズ」を除去して確からしいデータを得ようとしているが、このベンチャー企業はどこまでできるだろうか。

それ本当に本人のレシート?

レシートなどというものは落ちているものを拾えばいいだけなので、本人が買ったものとは断定できない。そう、レシートには宛名がないのだ。「ノイズ」のリスクが非常に高い。

レシートを撮影すると無料で家計簿に転記してくれるアプリであれば一定の信憑性は得られるだろうが、ただ「買い取る」というだけではそうしたノイズは防げない。

恐らく近い将来に家計簿機能を搭載するなどして対策を講じる必要が出てくるだろう。

レシートに商品情報が載るのは新しい機種だけ

レシート買取ビジネスの欠点はレジのシステムに依存すること。大手のコンビニやスーパーであれば商品名まで載っているレシートもあるだろうが、書店だと「文庫」「新書」「雑誌」くらいの情報しか得られなかったり、下手すると古い機種で「部門01」などという全く意味不明な情報しか記載されていないだろう。

例えば文房具屋の買い物で「部門01 1,000円」と記載されていたとして、それが筆記具なのかノートなのか印鑑なのか。ブックカフェなどの複合的な店舗であれば尚更複雑で、コーヒーを飲んだのか書籍を買ったのかで全く変わってしまう。

大手チェーン店で最新のPOSレジを使っていればいいのだが、実際にレシートを見てみると情報はそこまで多くないことがわかる。

レシートが出ない店舗もある

一番の欠点はレシートの出ない店舗や自動販売機での購入の捕捉ができないこと。

こればかりは仕方のないことだけど、「部門01」みたいなレシートにお金を払うよりはいいかもしれない。

ビッグデータの欠点は対面販売で補うしかない

個人情報とビッグデータについて考えてみると、実際に捕捉されていないデータが多いことが非常によくわかる。顧客の購買傾向のようなものは、実際は百貨店の外商担当者とか顔なじみの個人商店の店主のほうが「知っている」ように思う。

自分のために買っているのか、家族のためか、それとも贈り物なのか。

こういった情報は顧客から聞き出さないと出てこない。顧客から離れて抽象化されたビッグデータというものは、どうしてもこの点に弱いのだ。

商品Aが売れているから関連商品を出せば売れるのかというと、実際は商品Aは商品Bの代替品として購入されたものに過ぎない。こんなことがあったりする。

「本当はこんな商品が欲しいのだけど」という情報は、購買履歴からは見えてこない。

「レシートを買う」発想は面白い

「ビッグデータの分析からは顧客の購買意図・意欲までは見えない」とバッサリ切り捨てたわけだけど、そうはいっても「レシートを買う」という発想は面白い。

今までは購買履歴と引換に数%ポイントしかもらえず、その用途も限られてきた。それを現金化すれば情報が集まるというのは、考えた人は多くいただろうが実現してこなかった。実際にビジネスとして立ち上げようという意欲は買いたいと思う。

恐れるべきはビッグデータよりも「口コミ」

世の中にはビッグデータに個人情報が取り込まれることを敬遠しているひとも多いだろうが、こうやって考えてみるとビッグデータというのはノイズだらけで個人情報のごく一部しか見えてこない。

個人情報という観点で見ると、本当に怖いのは周りにいるひとであって、ビッグデータなどではない。「三丁目の太郎くん、まだ高校生のはずのにコンビニでタバコを買ってたよ」なんていう「ママさんネットワーク」のほうが、データなんかよりも、よっぽど恐ろしいんじゃないだろうか。

少なくとも、僕には、そう思えて仕方ない。

プロフィール
悠木貴仁(P.N.)

リベラル保守を自称するブロガー、高校・専門学校などで英語を教える非常勤講師。小学生の頃からインターネットの海を漂う。中学校で不登校を経験後、全日制高校を卒業して早稲田大学に進学、上智大学大学院で修士号を取得。ASD・ADHD・双極性障害・てんかんを持病に持ち、精神障害者手帳2級。

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