朝日新聞などの報道で明らかになった愛媛県の職員が書いた備忘録。
加計学園の岡山理科大学獣医学部の新設をめぐる問題で、柳瀬唯夫首相秘書官(当時;現・経済産業審議官)が「首相案件」と発言したという。
愛媛県の中村時広知事はこの文書について認めており、これまでの政府関係者が「総理が言えないから私が言う」「官邸の最高レベルが言っている」などと発言したとされる報道を裏付ける証拠が挙がってきたことになる。
「総理が言えないから私が言う」と和泉補佐官。「官邸の最高レベルが言っている」は内閣府の藤原さん。「総理は30年4月開設とお尻を切っている」と言ったのは萩生田官房副長官。そこへ柳瀬首相秘書官の「首相案件」がピタッとハマり、パズルが完成した。これ、どっから見ても安倍さんが指示したよね。
— 立川談四楼 (@Dgoutokuji) 2018年4月12日
「嘘つき」は官邸か愛媛県か
この報道については安倍晋三首相も愛媛県の中村時広知事もそれぞれの部下を信頼していると発言していて、双方の言い分は完全に食い違っている。
冷静に第三者の視点から見ていきたい。
愛媛県側には書類捏造の動機がない?
《藤原地方創生推進室次長の主な発言(内閣府)11:30》
要請の内容は総理官邸から聞いており、県・今治市がこれまで構造改革特区申請をされてきたことも承知。
「首相案件」面会メモ 愛媛知事が認めた加計文書全文 (朝日新聞デジタル)
愛媛県や今治市は加戸守行・前愛媛県知事の時代から「構造改革特区」の制度の下での大学の誘致を求めていた。
どうやって官邸に接触したかは不明だが、獣医学部を新設したいという意思は強くあったようだ。
中村時広知事は「職員が文書をいじる必然性はまったくない」と発言しているが、動機が全くないかどうかというと問われると少し弱い気もする。
- 政府としてきちんと対応していかなければならないと考えており、県・市・学園と国が知恵を出し合って進めていきたい。
- そのため、これまでの事務的な構造改革特区とは異なり、国家戦略特区の手法を使って突破口を開きたい。
- 国家戦略特区は、自治体等から全国レベルの制度改革提案を受けて国が地域を指定するものであるが、風穴を開けた自治体が有利。仮にその指定を受けられなくても構造改革特区などの別の規制緩和により、要望を実現可能。
「構造改革特区」ではなく「国家戦略特区」でいくというレクチャーを受けている部分。
ただ単に「首相案件」だから進めようではなくて、「制度上こちらのほうが有利だ」というのは官邸側でないとわからない問題だ。
- 獣医師会等と真っ向勝負にならないよう、既存の獣医学部と異なる特徴、例えば、公務員獣医師や産業獣医師の養成などのカリキュラムの工夫や、養殖魚病対応に加え、ペット獣医師を増やさないような卒後の見通しなどもしっかり書きこんでほしい。
- かなりチャンスがあると思っていただいてよい。
官邸主導の疑いの方が強い
文書を読んでいくと、何らかのレクチャーを受けない限り知り得ない情報が次々と出てくる。
柳瀬首相秘書官(当時)の発言とされる「現在、国家戦略特区の方が勢いがある」というのもその一つだ。
《柳瀬首相秘書官の主な発言(総理官邸)15:00》
- 本件は、首相案件となっており、内閣府藤原次長の公式のヒアリングを受けるという形で進めていただきたい。
- 国家戦略特区でいくか、構造改革特区でいくかはテクニカルな問題であり、要望が実現するのであればどちらでもいいと思う。現在、国家戦略特区の方が勢いがある。
- いずれにしても、自治体がやらされモードではなく、死ぬほど実現したいという意識を持つことが最低条件。
加計学園問題については安倍晋三首相が認可前にこの問題を知っていたかどうかも問われているが、首相秘書官が単独で行動することは通常考えられないので知っていたと見るのが自然な流れだろう。
- 獣医師会には、直接対決を避けるよう、既存の獣医大学との差別化を図った特徴を出すことや卒後の見通しなどを明らかにするとともに、自治体等が熱意を見せて仕方がないと思わせるようにするのがいい。
- 加計学園から、先日安倍総理と同学園理事長が会食した際に、下村文科大臣が加計学園は課題への回答もなくけしからんといっているとの発言があったとのことであり、その対応策について意見を求めたところ、今後、策定する国家戦略特区の提案書と併せて課題への取組状況を整理して、文科省に説明するのがよいとの助言があった。
「獣医師会との対立」「既存の獣医学部との差別化」
藤原地方創生推進室次長(当時)も柳瀬首相秘書官(当時)も獣医師会との対立や既存の獣医学部との差別化について言及している。
不足しているとされる公務員獣医師や産業獣医師の育成を謳うようにレクチャーを行っていて、いかにもそれらしく取り繕えば新設に動けると言っているようだ。
獣医学部新設は公務員獣医師の不足と無関係
大事な問題として、公務員獣医師や産業獣医師の不足は獣医師全体の不足とイコールではないということをおさらいしたい。
公務員獣医師などが不足しているのは単純にペット獣医師のほうが儲かるからであって、公務員獣医師や産業獣医師を増やしたいのであれば、ペット獣医師よりも高い給与を支払えばいいだけのことだ。
感染症対策に奔走する獣医師はペットを扱う獣医師よりも仕事が泥臭くハード公務員獣医師。待遇が高いのが当たり前じゃないだろうか。
それを「獣医学部を新設すれば補える」というのは筋が通らない。何度も書いているように、「人手不足」は(官製の)賃金安から発生している。
立証責任は政府側にある
愛媛県側は記録に基づいた証拠を提示しているが、官邸側は「記憶にない」「記憶をたどる限りはない」といって文書を開示していない。
もし愛媛県側が虚偽の文書を作成したと反証したいのであれば、記録に基づいて行うのが正しいやり方だ。
官邸側からは文書の一つすら出てこない。
森友学園や自衛隊の日報の問題が出ていいるなかで、政府に対する信頼は完全に失墜している。
嘘を言っているのではないというのであれば、きっちりと文書を提示してほしい。
2018年4月13日追記
日本テレビの報道によると、柳瀬元首相秘書官と愛媛県の担当者らが面会した際の記録文書が、農林水産省でも発見されたことがで明らかになった。
- 柳瀬氏と愛媛県の面会記録、農水省でも発見(日テレNEWS24)
参考リンク
- 首相、柳瀬元秘書官を「信頼」 愛媛文書、答弁避ける 加計問題(朝日新聞デジタル)
- 「首相案件」面会メモ 愛媛知事が認めた加計文書全文 (朝日新聞デジタル)
- 加計・獣医学部で入学式 加戸氏「魔法で出産した学部」 (朝日新聞デジタル)
- 愛媛県側か元秘書官「どちらかがウソ」 野党が追及 (朝日新聞デジタル)
- 加計問題、「秘書官出席」関係者が認める(TBS NEWS)
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