仮想通貨についての岩井克人さんの論考が面白い:グローバル経済と国民国家の対立

筆者は昨日の「タクログ。」で、仮想通貨の突破口は「(貨幣としての)信用獲得だと書いた。

通貨としての流通が広がれば、政府の規制云々を抜きに仮想通貨を信用する人が増えてくる。そうなれば、ギャンブル的な投資の対象としてはそぐわないかもしれないが、仮想通貨が一定の価値を持ち続ける可能性が高くなってくる。

【仮想通貨】押し目狙いで買ったものの下落傾向が続く(タクログ。)

【仮想通貨】押し目狙いで買ったものの下落傾向が続く
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筆者のこの観測について、本日(2018年1月18日)付朝日新聞朝刊オピニオン面に「デジタル通貨の行方」というタイトルで経済理論がご専門の岩井克人・国際基督教大学特別招聘教授(東京大学名誉教授)のインタビューが掲載されていたので共有したい。

(インタビュー)デジタル通貨の行方 経済学者・岩井克人さん:朝日新聞デジタル
 インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」の価値の変動が激しくなっている。お金として使える店も増えてきたが、不安定なビットコインは「貨幣」なのか。国家が管理を独占してきた貨幣の存在が、技術進歩で揺ら…

ビットコインは貨幣として利用されるか

岩井さんは、麻薬の地下取引から一般取引に利用が広がれば貨幣になるシナリオを映画いていたとしながら次のように話す。

人々が『貨幣になるかもしれない』と期待と興奮の中で値上がりを目的に買い始めたことが、逆に貨幣になる可能性を殺しています。

(インタビュー)デジタル通貨の行方 経済学者・岩井克人さん」(朝日新聞デジタル;朝日新聞2018年1月18日付朝刊13版13面;以下の引用は全てこの記事からのもの)

冒頭に引用した筆者の昨日の論考で、通貨の流通が広がれば利用者が増えるとした上で、「そうなれば、ギャンブル的な投資の対象としてはそぐわないかもしれない」と断ったのは貨幣として流通するには価値が安定する必要があるということが頭にあったからだ。価値が安定しないものは通貨として利用するにはいささか不便といえる。

貨幣の発行権は権力者の証

岩井さんは貨幣経済の歴史に触れた上で、中国のビットコイン取引所閉鎖政策は「人民元経済圏」への囲い込みだと説く。

発行するだけで『無から有』を生み出せる貨幣は、昔は王様の重要な収入源でした。現代では、人々を一つの貨幣圏に囲い込むことで、国内市場を統一し、政府や中央銀行の統治力を高める効果もあります。

仮想通貨に投資しているブロガーのイケダハヤトさんが「イケハヤ経済圏」という言葉を使っているのはこういったことを意識しているのだと思われる。

何度でも生き方を選べる社会。それがイケハヤ経済圏。 : まだ仮想通貨持ってないの?
すごくわかる。自分がやらないとダメなことが多いんですよね〜。/ 地方の「あ、じゃあ自分がやろう」感は異常 — イケダハヤト (@IHayato) 2017年7月23日地方は、絶対的に人が少ないです。十和田市は人口が6万人ちょっとです。東京23区では一つ
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自由放任の仮想通貨と貨幣発行権との対立

国民国家の中央銀行などが貨幣発行権を独占しているのに対して、ビットコインは自由放任主義。岩井さんは、貨幣経済の「原罪」である不安定性を制御するためにこそ中央銀行の必要性を説く。

貨幣は、だれもが『他人も貨幣として受け取ってくれる』と予想するから貨幣として受け取る、という自己循環論法で価値を持ちます。従って、その予想が危うくなるとだれも受け取ろうとしなくなり、その時、貨幣は貨幣でなくなる。これがハイパーインフレですが、このような不安定性は貨幣の原罪であり、貨幣経済に生きる限り、その可能性から絶対に逃れられない。だからこそ、有事に経済を制御する中央銀行のような公共機関が絶対に必要なのです。

そういう意味でビットコインは「中央を持たないために、仮に貨幣として流通したとしても必ず滅びる」というのが岩井さんの観測だ。

しかし、中央を持っていれば貨幣経済を制御できるかというと、それは違うというように筆者は考える。政府が暴走して国債を乱発するなど舵取りを誤れば、中央銀行発行の通貨ですら価値が崩壊するからだ。貨幣は本質的に不安定であるからこそ、各国の通貨に分散投資する。今まで投資家はそうやってリスク回避を図ってきた。岩井さんも、現在のドル本位制についての不安定さを危惧しているようだ。

今はドルが世界経済の主役ですが、私は一国の通貨が世界の基軸通貨でもある仕組みは、基本的に不安定だと考えています。もし、米国中心主義のトランプ政権下で米国の中央銀行が内向きな金融政策をとり続けると、ドルが信頼をなくし、基軸通貨の地位を失う危機が来るかもしれません。

本質は、グローバル経済圏と国民国家(連合)との対立

岩井さんはビットコイン技術を応用した公的なデジタル通貨についても触れられているが、ドル本位制が崩れたあとの新しい基軸通貨については、「世界銀行的な『中央』によって管理されるデジタル通貨である可能性が高い。」としている。そうなると売買を常に監視される超管理社会が訪れる可能性が非常に高まるので、筆者はそういった中央銀行発行のデジタル通貨というものには強い反発を覚えている。

現在の仮想通貨に対する引き締め政策というのは、何度も書いているように国民国家の経済圏を守ろうとするものだ。グローバル化する自由主義経済と国民国家というのは対立する運命にある。ビットコインのような仮想通貨の広がりは、グローバル経済圏にとって都合がいいものだが、国民国家にとってはその権力を削がれるもの。この21世紀というのは、19世紀以降の国民国家制度が崩壊するかどうかの分岐点と位置づけられる。

仮想通貨は生き残れるか

ビットコインなどの仮想通貨と各国政府による引き締め政策というのは、一種の経済戦争だ。武力による衝突ではなく、消費者がどちらの社会を望むのかを争う情報戦。消費者が中央銀行発行の貨幣に縛られたくないと望めば、仮想通貨による社会が実現するだろう。ドル本位制の現在の貨幣経済は崩壊寸前なのだから、国民国家(連合)は新たな基軸通貨を作り出すはずだ。それが何になるのかがわからない以上、この過渡期には株・不動産・仮想通貨などへ資産を分散しておくというのが賢いやり方であるはずだ

貨幣を使う経済は本質的に不安定で、安定性のために公共機関を絶対に必要とします。自由と安定性、個人と公共性のバランスを、どこに置くのか。個人が完全に匿名となる自由放任主義的な貨幣経済を演じようとしたビットコインの劇場は、そのような根源的な問題を、私たちに考えさせてくれているのかもしれません。

まとめ

岩井さんの論考に沿って貨幣経済と仮想通貨について見てきたが、筆者はその本質をグローバル経済と国民国家(連合)との経済戦争として捉えている。この戦争はしばらく続くだろう。仮想通貨や株式への投資を促すつもりはないが、今回の仮想通貨の乱高下は対岸の火事ではない。自分が将来どのような社会に住みたいか。それを選択することにつながるのだ。仮想通貨の乱高下を通して、現在自分たちが置かれているドル本位制の経済圏について考えてみてはいかがだろうか。

興味をもたれた方は、朝日新聞2018年1月18日付朝刊オピニオン面の「(インタビュー)デジタル通貨の行方 経済学者・岩井克人さん」をご覧いただきたい。なお、朝日新聞デジタルは会員登録(無料会員)することで1日1記事まで有料記事で読むことができる。

参考・引用資料

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