21世紀は子供が仕事場にいる社会を取り戻そう:「働き方改革」と「保育所不足」の狭間で

産業革命以降、人類は子供を社会から隔離することで発展を遂げてきた。「学校」という制度は、後世をリードする人材を育成するために生まれたはずだったが、その役割は「子供」という存在を「大人の社会」から隔離することに変容してきたように思える。児童労働が当たり前だった時代、子供は労働力の担い手として社会の中にいた。日本でも「丁稚奉公」「子守奉公」といった言葉に、その片鱗が残っている。20世紀の前半には、子供は労働者として社会に存在していた。

学校制度の拡充と児童労働の制限

日本史の教科書を眺めると、明治期の日本では小学校設立に反対する運動があったという。当時の子供は、田植えや稲刈りなどの繁忙期に引っ張り出される有用な労働者だったからだ。「学校なんぞ行っても」という親の声が聞こえてくる。当時の子供は、親や村の人々から植生など生きるのに必要な知識を教わりながら育っていた用だ。学校へ行っても、毒キノコの見分け方などは教えてくれないだろう。*仮に読み書きそろばんができたとしても、米や野菜を育てられないようじゃ百姓1としてはやっていけまい。当時の人々にとっては、現在当たり前になっている学校制度が子供の「生きる力」を削ぐ悪しきものに見えていたように思える。

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義務教育制度の意味

小学校が義務教育となり、有能な子供や良家の子息は(旧制)中学校や師範学校、大学へと進む制度が拡充される。アジア・太平洋戦争に敗れた後に(新制)中学校までが義務教育となり、子供は(少なくとも)15歳までは学校へ行くのが社会の常識になる。一応触れておくが、義務教育というのは、あくまで親が子供を学校へ行かせる義務を負うというものだが、それは日本人の大半が百姓であった頃に、子供を学校へ行かせない親がいたことを反映してのものだ。義務教育だからといって、子供が自らの意思で学校へ行かないという選択をすることは問題ない。221世紀のこの世の中で、子供を労働力の担い手として必要としていることは限りなく少ないだろうから、子供が「学校に行きたくない」と言ったとしたら、その意思を尊重してあげてほしい

モラトリアムを生きる子供たち

話が横道に逸れたが、現代の日本では児童労働が厳しく制限されている。親のほうも中学校は(形式だけでも)卒業している人しかいないわけだし、多くの人は高等学校を卒業している。企業の求人を見ても、大学卒業程度の人材を求めていることが多い。大学くらいは行かせてあげたい、できれば有名大学を出て、「いい会社」に入ってほしい。高度成長期を経て日本社会は大学卒業の22歳頃まで子供を未成年として扱うことを選んだのだ。人はそれを、「モラトリアム」と呼ぶ。労働力となる力を持っていながらも半人前であり続ける人々。労働者として社会を背負ってほしいという願いも込められているのだろうか。そうであれば中学校・高等学校卒業程度の人材を受け入れればいいのに、大学卒業程度を求めているのだからよくわからない。

近代化から「女性の社会進出」へ

学校制度の拡充は近代化の産物の一つだ。近代化によってあらゆる職種が分業化され、あるいは機械化され、村社会の中で働いていた百姓の女性が男性社会へ進出していく。村の一軒家で行われていた手工業が機械化されたことで女性は工場へ働きに出ざるをえなくなり、「女工」という言葉が生まれる。製品化された衣服を売るために「マネキン」(=現代でいう「モデル」)となる女性、会社の顔となる「受付嬢」になる女性、あるいは「エレベーターガール」、「女性車掌」…。明治大正期の日本では未婚女性が社会を担い手として活躍していた。

高度成長が生んだ「専業主婦」制度

近代化が進むにつれて、それまで百姓が担ってきた手工業が機械化され、上流階級では<婦人=マダム>と呼ばれる存在が生まれる。アジア・太平洋戦争後の高度成長期にはそれが中流階級まで及び、いわゆる「専業主婦」という制度できあがったのである。男性が「社会」に出て働き、女性は「家庭」を守る。狩猟採集時代に男が狩りをし女が集落を守っていたのと重なるような気もするが、そうやって戦後の日本社会は成り立ってきた。

社会から隔たれた主婦と子供

高度に近代化された社会では、(既婚)女性は家庭を守り、子供は学校で勉学に励む。社会の担い手となるのは男性と未婚女性だけだ。「女性は結婚すれば主婦となって家庭を守る存在となる」というなら、社会を永続的に発展させるには男性中心の社会とならざるをえなかったことだろう。大人の男性が運営する社会、家庭を守る(既婚)女性、そして学校という閉鎖空間で「モラトリアム」を生きる子供。近代社会では、女性と子供は社会の中心から疎外されてきたのだ。社会制度の仕組みがそうさせてきたのである。

「専業主婦」制度の崩壊と「働き方改革」

昭和末期から平成にかけてのバブル崩壊によって、それまでの専業主婦制度が崩壊を迎える。上流階級と一部の中流階級を除いて、男性(=主人)一人の収入では生活がままならなくなったからだ。パート従業員という言葉が生まれたのもこの頃だろうか、扶養控除の範囲内でパートタイムで働きに出る女性や小遣い稼ぎにアルバイトで働く学生が低年齢化してきたのもこの頃であろう。ある意味では高度成長期以前の「あるべき姿」に戻ったのだが、社会はそのように受け取らなかったように思う。

「女性の社会進出」に伴う慢性的な保育所不足

女性が社会に戻ってきたことに伴って、それまで専業主婦制度が支えていた「子育て」を担う人材が消失する。小学校に入る前の就学前保育は1〜3年の幼稚園や保育所でよかったものが、0歳児から保育所に入らなければ生活もままならないほどになっていった。同時代的な流れで核家族化も進行したからか、保育所は慢性的な不足に陥るようになる。かつては一部の人々を支えるセーフティーネットであった保育所が、今では社会の大半の人々に必要とされている。社会全体の貧困が、保育所不足を招いたと言っても過言ではない。

アルバイトに勤しむ苦学生の増加

社会が成長するのに伴って学費も高額になった。かつては新聞配達などのアルバイトで工面できたかもしれないが、家庭の困窮によって、学生とその家族にかかる負担はうなぎ登りに増えていった。企業が大学卒業程度を求めるものだから、学生は奨学金という名の下にローンを組んで大学卒業を目指す。社会全体が衰退しているものだから、卒業後に職にありつけたとしても低賃金でローンを返せないという事態が起こっている。苦学生の増加も社会全体の流れと一致している。

「学校」と「社会」との断絶

子供が労働力の担い手であった時代、子供は村社会という教育制度の下で育まれていた。20世紀に敷かれた学校という制度によって、「子供は学校へ行って一人前になるもの」というレールが敷かれたのである。この頃から、大人の社会と子供の社会(=学校)との断絶が起きるようになる。

学校に行くのが当たり前の時代

保育園や幼稚園から始まり、小学校、中学校、高等学校、そして大学へ。どの学校を選ぶかという選択肢はあれど、制度上は多くの人が同じレールを歩んでいる。多くの人が疑いもせずにそれが当たり前だと考えているようだが、それは人類の歴史上、極めて最近に始まった制度だ。当たり前ではない。現代社会の要請として生まれた、人類史上では極めて希な制度だ。

学校に行かない子供は「不良」?

最近はあまり聞かなくなったが、理由もなく学校に行かずにふらふらとしている子供は「不良少年/少女」と呼ばれた。「普通に学校に行って、普通に卒業して、(それなりに)いい会社に入ってほしい」という願望がそう思わせたのかもしれない。「普通の大人」にとってはそれが「普通の人の歩むべき道」であって、それから逸脱するのは「不良」だということだろう。かつて学校制度に反対した人々の爪の垢を煎じて飲ませたい。

子供は社会全体で育てるべきもの

近代社会は人類は子供と女性を隔離することで発展してきた。子供を学校に、女性を家庭に隔離し、男性中心の社会を形成してきたのだ。そして、学校制度と専業主婦制度に支えられたそれは、終焉を迎えようとしている。最近、乳児を連れて議会に参加した議員が問題になったが3、それは人類の歴史から考えると問題とすべきことがらではない。これまで、我々の大多数が「当たり前」と信じてきた社会が幻想だったということに過ぎないのだ。21世紀の1/5が過ぎようとしているこの世の中で、女性と子供を社会の中心に戻そうではないか。女性と子供の社会復帰。仕事場で子供が遊んでいる日常。それが実現できれば、人類は大きな進歩をすることになるだろう。

脚注

  1. 「百姓」を差別用語とする向きもあるが、本稿では「百姓」を「農民」と区別し「自給自足の生活をする人々」の意味で使用している。
  2. いじめや体罰などを要因として学校への不適応を示している子供については、学校の保健室やカウンセラー、各教育委員会の設置する「適応指導教室」などを利用してほしい。適応指導教室では出席日数が確保できるので、試験の日だけ学校へ行くなどすれば進学への影響は最小限に留められると思う。筆者も中学生時代に1年間「適応指導教室」に通い、その後は私立高校の普通科に進学している。
  3. 女性阻む壁打ち破るには…「子連れ」熊本市議と青野社長(朝日新聞デジタル)

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